ピロリ菌の検査・除菌

ピロリ菌とは

ピロリ菌とはピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)は、胃の中に棲息している場合がある細菌で、胃癌や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因となることが明らかにされています。胃の中には、胃酸が存在するため通常の菌は死滅します。ピロリ菌は特殊な酵素をもち胃粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、アンモニアで胃酸を中和させることによって生存しています。
ピロリ菌はほとんどが、免疫が発達していない乳幼児期に経口感染します。成人後に感染することはまれで、感染しても免疫で排除されることが多いといわれています。ピロリ菌感染が成立すると、菌はそのまま胃に定着し一生感染が持続します。

感染経路

感染経路は、水系感染(ピロリ菌に汚染された水、食品を介した感染)、家庭内・施設内感染(乳幼児期の感染者との接触:離乳食の口移しなど)、医原性感染(消毒の不十分な医療行為:内視鏡・歯科治療など)とされ、家庭内で感染者からの口移しが多いと言われています。
現在、日本人の約半数(およそ6000万人)はピロリ菌に感染しているとされています。(感染既往の方も含む)
特に50歳以上の人で感染している割合が高いとされています。しかし衛生環境が整ったことによりピロリ菌に感染している割合は減少しており、若い世代では低くなっています。

ピロリ菌感染後の経過

乳幼児期に感染が成立すると、ピロリ菌が産生するアンモニアや毒素などにより胃粘膜が炎症を起こし、何年もかけて慢性胃炎が進行し胃粘膜の防御機能が低下していきます。ストレスや食生活、たばこなどの要因も加わり消化性潰瘍が生じることがあります。やがて萎縮性胃炎、腸上皮化生などに至って行く過程でDNAの障害が蓄積されて様々な遺伝子異常が生じた結果、胃癌や悪性リンパ腫などが発生するとされています。

各種疾患でのピロリ菌感染率

ピロリ菌に関係する疾患に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性萎縮性胃炎、胃癌、胃マルトリンパ腫などがあります。さらに特発性血小板減少性紫斑病や慢性蕁麻疹、鉄欠乏性貧血、その他疾患にもピロリ菌感染との関連性が指摘されているものがあります。

ピロリ菌と胃癌

ピロリ菌が引き起こす胃粘膜萎縮が胃癌の発生母地

 ピロリ菌感染→→→胃炎→→→胃粘膜の萎縮・腸上皮化生→→→胃癌
                  ↑   ↑   ↑   ↑
           DNAの障害が蓄積していき多数の遺伝子異常が生じる 

日本人の胃に棲息するピロリ菌は病原性が強い

欧米やアフリカでも日本と同様にピロリ菌に感染している人は多いですが、日本と比べて胃癌は非常に少ないです。東アジアでも日本や韓国では胃癌が多いですが、同じ東アジアでも南方に行くほど胃癌の発生率は低くなりタイやインドネシアでは日本の約10分の1です。
その理由として、日本人の胃に棲息するピロリ菌の90%以上が病原性の強いcagA遺伝子を持つからであるとされています。
ピロリ菌は菌体表面に注射針のような構造を持ち、それを胃に刺し込み病原性を持つcagAという遺伝子が作るたんぱく質を注入して障害を引き起こしていきます。

除菌治療による胃癌の予防効果が示唆

☆ピロリ菌感染者では2.9%(36/1246例)に胃癌が発生したが、ピロリ菌非感染者(280例)からは胃癌は1人も発生しなかった。(Uemura N et al:N Engl J Med. 2001)
☆早期胃癌の内視鏡治療後にピロリ菌を除菌することで異時性再発癌の発生が3分の1に減少した。(Fukase K et al:Lanset. 2008)

ピロリ菌の検査方法

ピロリ菌の感染を調べる検査方法はいくつかあり、内視鏡で採取した胃の組織を用いる方法、血液検査、尿検査、便検査、尿素呼気テストなどがあります。状況に応じて適した方法がありますので、ご相談ください。
大きく分けて「内視鏡検査による方法」と「内視鏡検査を用いない方法」があります。

内視鏡検査によるピロリ菌検査

内視鏡検査によるピロリ菌検査

培養法

採取した胃粘膜をすり潰し、数日培養して調べる方法です。

迅速ウレアーゼ法

ピロリ菌に存在するウレアーゼという酵素が生成するアンモニアの有無から判定する方法です。

組織鏡検法

胃粘膜の組織をヘマトキシリン・エオジン染色やギムザ染色し、顕微鏡でピロリ菌の有無を観察する方法です。

内視鏡検査を用いないピロリ菌検査

尿素呼気試験

呼気に含まれる二酸化炭素の量を測定することにより、ピロリ菌が存在するか否かを測定するものです。

便中抗原測定

便を採取し、抗体の原因成分であるピロリ菌の有無を調べる方法です。

尿中抗体測定

尿検査によって、尿に含まれるピロリ菌の抗体の有無を診断する方法です。

血液検査

血液を採取し、ピロリ菌を排除するために生成された抗体の有無を調べる方法です。

感染診断検査で注意すべきこと

胃粘膜組織、血液、尿、便での検査や呼気試験が行われています。それぞれ一長一短はありますが、どの検査も信頼度の高い検査です。しかし、どの検査も感度が100%と言えないため、実際はピロリ菌に感染しているのに陰性の結果となるケースが出てきます(偽陰性)。

偽陰性が疑われたら

病院やクリニックでの保険診療では、内視鏡検査でピロリ菌感染が疑われた場合に感染診断検査を行っています。従って、偽陰性の可能性が高いと考えられるケースでは他の検査を行ない確認するようにしています。検査の種類によってはある種の胃薬や食事の影響を受けて偽陰性になっていることもあるため、内服されている薬や食事の後の検査かどうかを申告して頂くことが大切です。

血清抗体検査での“陰性高値”

血清抗体検査は服用中の薬剤や食事の影響を受けにくく、他の血液検査で用いた検体で測定できる簡便さもあって、初期の感染診断検査として人間ドック、健康診断でよく行われています。現在、国内で多く用いられている血清抗体検査キットでは10 U/ml以上を陽性としています。10 U/ml未満は陰性の判定になりますが、3〜10 U/ml未満となった方の10〜40%にピロリ菌が棲息する感染者が存在していることがわかったのです。そこで、血清抗体検査の結果が3 U/ml未満であれば確実に陰性と判定し、3〜10 U/ml未満の場合には他の方法で再検査を受けることが推奨されるようになりました。逆に、人間ドック、健康診断によっては血清抗体検査が3 U/ml以上を陽性として説明されている場合もあります。この場合も、いきなり除菌治療を受けるのではなく、他の検査で現在の感染を確認してから治療を受けるのが良いでしょう。

3 U/ml未満  陰性(未感染) 
3〜10 U/ml未満 陰性高値で要注意!!既感染、現感染の可能性あり 他の方法で再検査を
10 U/ml以上 陽性(現感染)

未感染と既感染は大きく違います

内視鏡検査で萎縮性胃炎があるにも関わらず、ピロリ菌除菌治療を受けたことがないのにピロリ菌検査で陰性となるケースがあります。過去に気管支炎などの治療で服用した抗生剤で、たまたまピロリ菌が除菌されたものと推測されています。ピロリ菌除菌治療は胃がんリスクを下げると考えられますが、胃がんにならないことを確約するわけではありません。内視鏡検査で萎縮性胃炎と診断された場合には、定期的に内視鏡検査を受けるようにして下さい。

胃粘膜高度萎縮でも“陰性”に

ピロリ菌感染によって胃粘膜萎縮が高度になると、ピロリ菌が棲息できなくなりピロリ菌検査で陰性となってしまいます。ピロリ菌除菌治療を受けなくて済むのだからラッキーと思わないで下さい。実はこの状態の方の胃がんリスクが最も高いと考えられているのです。未感染者との鑑別は内視鏡検査で容易にできますが、内視鏡検査を受けずにピロリ菌検査だけを受けた場合には区別ができないため怖い落とし穴になります。

ピロリ菌の治療

2013年より、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対するピロリ菌除菌治療を保険診療で行うことが出来るようになりました。保険診療でピロリ菌の検査が行える対象は、胃カメラによって胃炎の確定診断がなされた患者様となっていますので、胃カメラは必須となります。(他院で胃カメラ検査を受けられた方は、その結果を持参していただき、保険適応となる疾患が確認できれば再度の胃カメラは不要ですが、日本消化器病学会の見解としては6ヶ月以内に胃カメラが実施されている必要があるとされています。)
ほかに、ピロリ菌の検査・除菌治療が保険適応になる疾患として、
1) 胃カメラ又は造影検査において胃潰瘍または十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者様
2) 胃MALTリンパ腫の患者様
3) 特発性血小板減少性紫斑病の患者様
4) 早期胃癌に対する内視鏡治療後の患者様
などが該当します。

ピロリ菌の除菌治療は2種類の抗菌薬と胃酸の分泌を抑える薬1種類の計3種類の薬を朝と晩の1日2回、7日間内服します。薬剤アレルギーのある方はお申し出ください。保険診療で使用できる薬剤の組み合わせは決まっており、1次除菌(1回目の治療)、2次除菌(1回目で除菌に失敗した場合の2回目の治療)まで保険診療で治療を行うことが可能です。2回の除菌治療に失敗した場合の3次除菌は現在保険適応となっておらず、治療を希望される患者様は全額自費負担となります。
ピロリ菌除菌治療に成功したのかどうかの判定は、治療薬内服後4週間以上経過してから行うとされています。
ピロリ菌が絶滅していなかった場合でも菌体数は減少していますので、胃内でピロリ菌の菌体数が回復する期間を待たなければ正確な判定が出来ないためです。除菌判定は除菌治療終了後から判定までの間隔が長いほど判定精度が高くなるため、当院では基本的に、除菌治療終了後8週間以降で行っています。
なお、除菌に成功することによって胃がんなどのリスクは大幅に減少しますが、罹患率がゼロになるわけではありません。除菌後も、定期的に内視鏡検査などを受け、胃の状態をチェックしておくことが重要です。

除菌不成功の主な原因

クラリスロマイシンの耐性

保険診療で定められた1次除菌薬に含まれる抗菌薬であるクラリスロマイシンに対する耐性を持っている場合。

従来の胃酸分泌抑制薬(PPI)を使用した場合

胃酸の分泌を抑える薬でプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用した場合で、体質的にPPIの代謝が早い例。CYP2C19の酵素活性を持つ人ではPPIの代謝が早くなり十分に胃酸分泌を抑制できなくなりますが、CYP2C19に影響を受けない薬剤(タケキャブ)が開発され治療成績が改善されました。

服薬方法を守らなかった場合

服薬コンプライアンス(しっかり薬を内服すること)が60%以下になると、除菌率が30%低下します。除菌失敗は耐性菌を生じる原因になります。
自己判断で薬を減らしたり、服用を忘れたりしないようにしてください。
1日2回朝と夕に、3種類の薬(2種類の抗菌薬と胃酸の分泌を抑える薬1種類)を7日間連続で内服して頂きます。

喫煙している場合

喫煙により胃粘膜の血流が低下するため、ピロリ菌が棲息する胃粘膜に除菌薬の効果が届きにくくなるためという報告があります。
ピロリ菌除菌薬を内服中は禁煙をしていただきます。

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※大腸カメラは主に午後の予約検査時間(13:00~16:00)に行います。
大腸カメラは、検査に備えた下剤処方などのため、事前に受診いただく必要がございます。
※毎週水曜日午前は今後も音羽病院での診療を行います。

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